私が所謂自然派(今でいうナチュラル、ナチュール)ワインというものを飲みはじめた2000年代前半は今振り返っても素晴らしい時代でした。
ティエリー・ピュズラ、マルセル・ラピエール、フレデリック・コサール、フラール・ルージュ、ジェラール・シュレール、マルク・テンペ、ゴビー、ブルーノ・デュシェン、ボワ・ルカ、アリス・エ・オリヴィエ・ド・ムール、クリスチャン・ショサール、ビネール、クライデンヴァイス…綺羅星のごとく現れたスター達が最先端の感性で素晴らしい味わいのワインを生産し今となっては信じられないくらいのプライスで販売していたあの時代。ピュズラのトゥーレーヌ・ソーヴィニヨンとか、本当に大好きで相当数飲んだような…。
そんな自然派のスター生産者の中でもとりわけ印象的な作り手がニコラ・ルナールでした。最初に飲んだのがルメール・フルニエ名義の2003年のワインだったと思うのですが、彼の作るワインは圧倒的に瑞々しく圧倒的にピュアで余韻も美しく比べるものが一切ないもので最初に飲んだ時はかなりの衝撃を受けたことを覚えています。
2005年にニコラがルメール・フルニエを辞めた(バックれた?)ことで2004年がルメール・フルニエとして最後のヴィンテージになりファーストヴィンテージの2002年を含め僅か3年間しか生産されず、またニコラ本人も行方不明のようになった後日談もまた強い印象を残しました。
彼がルメール・フルニエ時代に作っていたワインはシュナン・ブラン種によるもので、蜜のニュアンスを帯びた華やかな香りを取るだけで彼のワインだと一瞬でわかる個性を持ち、口にすれば様々な要素が何十にも積層した甘口のワイン。甘、酸のバランスが秀逸で当時は”切ない系ワイン”と呼んでいました。代表格としてはピュズラが数ヴィンテージだけ作った”サヨナラ”(とりわけ2004年)、他では綱渡りのようなバランスのクライデンヴァイスのクリット・ピノブランやビネールのカッツアンビュルなど。
こちらのLuluはニコラ・ルナールが本当に久しぶりにロワールの地で醸しているワインです。ルメール・フルニエの時のような”黄金の林檎”を思わせるような強い果実味、強いインパクトはなく細身でスタイリッシュ。しかしその中にも凝縮感とミネラル、美しい余韻に向けてシームレスに収束していく様は目の前の液体が間違いなくニコラのものであることを証明するものです。クラシカルなワインはもちろん、昨今のナチュラルワインにもない唯一無二の魅力。
様々な生産者の様々な感性が有機的に反応しあったあの狂騒の時代をもう一度と願うのは欲張りかも知れませんが、ニコラには毎年堅実にワインを生産し、往年のルメール・フルニエのウルティムやピュズラのサヨナラのように飲み手の感性を激しく揺さぶるワインをもう一度作って欲しいと一ファンとして切に願います。